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日本の鮎の川 <上桂川の憂鬱>

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JPAという友釣りグループがある.

別名を『プロ協会』といって、全体的な運営のシステムがちょうど
ゴルフ界の構成に良く似ている.いや、もともとそういうカタチの
設定を模倣したのかもしれない.

先日(02年3月下旬)取材させていただいた西片君もここのプロだ.
彼の話では初代の会長が交代し、今は狩野川の植田先生が2代目を
襲名されているという.

10年ほど前、その『鮎プロ』という肩書きにえらく憧れた.

そして、1対1での2時間のスクラッチ試合の緊迫感が堪らなくて、
よくいろいろな会場に出掛けた.

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ある年の真夏の『JAPANオープン』(これもゴルフずばりだな、笑)が
京都で催された.

会場河川は美山川.
たっぷりの山の緑、豊かな自然の素晴らしいロケーション.


当時の仲間で、『狩野川達人会』の山下君などは、ちょいと
『雉子打ち』に茂みに入ってしゃがんだ途端、、、

目の前にマムシが鎌首をもたげていたという、、、

  「ウヒヒヒ~~」

  「キャッ~」

右を見たら、

  「グゲゲ~~」

ともう一匹、ゾゾ~っとして、左に逃げようとしたら

  「ケケケ~~」

と、集団に取り囲まれ、ズリ下ろしたまんまのスタイルで、

  「ガピョン!」

と、5m後ろに跳びのいたそうだ.

  「すっかり出るモンもすっこんじまったズラ~」

命カラガラ、、だったそうである.

元来、真面目な地方のキマジメなヒトのゆーことは、迫力があるのだ。。。

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自然の川らしく、カーブがたくさんある.
そもそもカーブのない川は、自然本来の川ではない.

雨がらみの不安定な気候が続いた夏、
それでもモクモクと思いっきり枝を伸ばす樹木が重なる
森林地帯を流れる川で大会は始まった.


地元のみなさんの協力体制が素晴らしかった.
みなさん、顔が生き生きとしていて、オラが村サの鮎に
自信と誇りを持っているのが、ハッキリとわかる.

釣れる鮎もバリバリ湖産の真っ黄ッキ、ばかりで、
申し分ないないのだった.


    

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ハナから抜け出して連勝街道まっしぐら.
軽く予選の4試合をクリアした.

その時のアタリ鉤は『競技7号』の小バリ.
軽い3本イカリだった.

今じゃもう、残り物くらいしか見当たらないが、
その時の成績が良かったので印象深いハリだった.

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試合3日目の朝からは、いよいよ『プロ』連中との対戦が
始まるのだ.

優秀なプロのお一人、がまかつの角田一成さんは隣町に
在住している.近隣の関係で、京都には一緒に連れてきて
いただいたわけなのだ.

ついに彼のようなプロとの試合が出来る、というので
気分はサイコー!ついつい、リキが入った (笑)

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その朝の対戦相手は植田先生のところで技工士として勤務している
という落合君.

  「まあ、なんとかなるだろ...」

ところがまずいことに、

その朝一の試合の審判員が日置川の森清クンだった.

いつも日置川に行くと泊まらせていただく民宿『森のお宿』の
若主人で、無論、本物のプロ中のプロだ.

なにしろ手ずからオトリ捕りをやっている民宿の若主人だから、
我々とは年期が違うし、根性の入り方が雲泥の差だ.

誠に「ひょうひょう」とした人物で、関西人特有のツッコミも厳しい.

まあ、その後も仲良くさせていただいてはいるが、、
明らかにこちらを「ヘボ」と認定している様子がアリアリなのだった.

  「ナンだったら瀬で勝負すっか~」

なんて、強がりを言ってみせるが、全く相手にしてもらえない.

  「うぬ~、、こりゃあケチがついた試合かなあ?」

正直な試合前の感想だった。

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前半戦は目の前の平瀬が暗く、丁寧に手前から泳がせるも、
反応がない.
つまり、一時間泳がせまくって、、、ペケ!


う~む、参ったなあ、、、キヨシちゃんの目線が背中に痛い.
どうせ、セセラ笑っているに決まっている.

  「くっそーーー!」

こうした時は、なにしろ気分転換が大事だ.

イラついた顔を相手に見せれば、即、負けにつながる.
負けたところで、テキトーな言訳を用意しておけば、
仲間の集まったその場はしのげる.

だが負けの事実は、確実な現実として、いつだってこの背中に、
ベッタリとオンブしてくるのだ.

地元に帰ったところで、1~2週間の間は、

  「キミ、キミ~」

などと、突拍子もないところで、肩口から人の顔を
覗いたりするのだ.

上を極めようとすれば、ネガティブ坊やが現れて、
いたずらをする...
いやだと言っても逃れられない、結果は結果なのだ.

だから、そう簡単に負けるわけにはいかない.

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たかが鮎釣り.

その鮎ジンセーを凝縮して、今、こんなところに自分は存在している、
一体なんだって京都くんだりまでやって来ているのだ?

そのことの言訳とその証明を今日この試合で行わなければ、
自分の明日はないではないか!

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後半は場所を代わる.

カーブとその周りの木立と草の中を抜けたら、
ポイントは大岩ゴロゴロの狭い一本だった.

この上流は開けているのかも知れない.
だが、優しい場所は攻められ続けているに違いないのだ.

岩を登りきって、決めた.

ヒトが絶対やらないだろう大岩の上から、

手前の岩と向こうの岩の間の水の流れがスピードを増す、
吐き出しの肩、3~5m手前の一本瀬の核心部に挑戦する!


手前、および向こう側の岩周りの緩流はせいぜい30cm.
アブクさえ発生しない緑の水が岩周りに回転し、
そこにもここにも新鮮な朝の酸素とオゾンが発生し始めている.


大岩手前の砂の緩流のピチャピチャでオトリを仕込む.
もちろん、前半戦には使わなかったトラの子の一尾だ.

その浅場からオトリを動かさないようにして、

   ウンコラセ~の、ドッコラショ!

と、大岩の2m半を登りきる.

持ち手より、穂先の方が低いという厳しい釣りだ.
京都の釣り人が絶対使わないだろう3号ダマのオモリ釣り.

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手前1m以内で馴染ませて、徐々にセンターをとった.
途端に、とび跳ねるような目印の強烈なアタリ!

  「グイグイ、きゅ、キュイーーン」

掛かれば岩をホイホイ駆け下り、引き船に入れ、
ハナカン通せば岩登りというシンドさだが、9尾連続で来た.

何も考える必要はない.
何かを考えているヒマもない.

ただ、水底にいるはずの自分の化身となったオトリ君との
コンビネーションに集中するだけだ.


獲ったのは9尾、合わせて11尾.


あと2~3匹でイケル、と確信したその瞬間に、
フワ~っとしたアタリから、一気の引き込み! 

  「クッ! 良型、背掛かり!」

5秒後に、メタル・バリバスが宙をふわふわした.
真夏の直射が差しはじめた岩陰から姿を現した大物だった.


そして無情のホイッスルが聞こえた.

  「ピッ、ピッーーー!」

試合終了.

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対戦相手の落合君は、

  「だめだぁ、やられたー、入れ掛かり見たよー」

などと言ったが、角突き合わせて釣果を数えてみれば...
痛恨の1尾差負け.

  「クッソー、森キヨシ~」

などとあらぬ逆恨みをしている、お前はバカか...

そういえば、その後、対戦相手のオチアイ君は
どうしているのだろう...

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試合に負けた瞬間に、

  「アタシの夏は終わった・・・」

などと、簡単な物言いで済ますほど、鈍感ではない.

真に自らのあり方に拘泥するならば、
自分を育てる素材は、いくらだってその辺に
ころがっていることに気づかねばならない.

要は、問題意識のあり方をコントロールするだけの
力量があるか、ないかなのだ.

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すなわち、
この京都の大会の目玉はいわずもがなの決勝戦だったのだ.

  大金VS小倉、、、

歴史に残る大勝負だったと言っていいだろう.

まさか、他人の鮎勝負を観戦して、落涙するほどに感動するとは
思わなかった.

そしてスゴイ連中がいるもんだ、と心底、そう思ったのだった.


前半戦、『早掛けの大金』の圧倒的なリードがほぼ20尾超、
これで試合の興味が半減した.

こんなもんかと思っていたら、

後半戦にはジワリジワリと小倉が迫り、
最終盤の入れ掛かりで20尾をタイに持ち込んでドロー.

なんということだの小倉のぶっとい精神性.

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その小倉.

派手さが一切なく、精神の安定度、強じんさを秘めた、
『芯』のブレない釣り姿.

ちょうど、二人の釣りの対岸・右岸の見物席で見ていた
アタシの隣には、小倉の乳飲み子を抱いた若い奥さんと
連れ添うもう一人の女性がいた.


  「・・ちゃん、ほら、お父さんを見な!」

  「アンタのお父さん、すごいんだよ」


そんな意味合いの関西弁が真夏の酸っぱい空気となって
伝播してきた.

小倉の奥さんの内面の感動が、こちらにもグイグイと
伝わってきたのだった.

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エキストラゲームは早がけ競争、そしてあっさりと、
数秒で小倉が決めた.


小倉は鮎釣りで、その絶対的な実力で家族を力強くけん引する.
その魂胆は偉大なものであった.


彼我の『圧倒的な差』を現場で見せつけられ、
軟弱な誤魔化しと軽いウソで、
夏の家族の日常に紛れ込んでいる自分が恥ずかしいとも
感じたのだった.


(2002年夏、NHKの『ひるどき』に出演、
 周山を案内する小倉の姿は、すっかり丸くて
 可愛らしかった.)


    


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だから、釣りにおける『京都』の印象はよかったのだ.

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8月の後半だったか、

  『プロテスト』を受けろ、

というので一人で出掛けた.その会場は京都は周山、
小倉の地元、上桂川だった.


ペーパーテストで、

 「会長の名前は?」とか
 「着替えはクルマの中でやる」のが正解、、、

そんな馬鹿馬鹿しい設問があり、
普段の鮎師としての行動や考え方じゃ、おおよそ
半分以上は不正解じゃねえか、
などと思いつつ受けた、
久しぶりのペーパーテストだった.


テストで点取る為に、「節」を曲げた.
嫌々、それらに「正解」を書いたが、
まるで教習所や運転試験場のテストみたいな
劣悪なセンスなのにはホントにうんざりした.

 「こいつら、鮎釣りっきゃできないアホばっか
  そろってんだろうなあ」とか、

 「この、ご都合主義に、オレははまっちまうのかー?」

などと、とついつい『不謹慎』な思いを胸にした.

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じつはそんなことはどうでも良かったのだ.
問題は実釣テストだった.


 一戦目、京都RFCの若い子.2尾対12.(ゼロ負け)

 二戦目、やはりそれらしい地元の高校生.2対9尾(ボーズ負け)

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ボーズなんだよ! ボーズ! 

4時間で一匹も釣れなんだぁ~~

しかも昨日今日鮎釣りはじめたような、高校生のガキに
負けちまったんだようぅぅ!

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実釣の後の集会で居場所がない.
いたたまれない、
Unable to Stay !

 「それじゃあ、遠いグンマのヒトは先にお帰りなさい」

すっ飛ぶようにして会場を後にした。

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即、川に戻った.
オトリを買った.
サオをのばした.

そして、、、次の2時間で、またボーズだった.

しかも、鮎が掛からない間にどんどん空虚になってゆく
心のすき間に「不注意」が忍び込み、川の中でコケた.

この川特有の、とがった岩盤の角が弁慶の泣き所を
思いっきりつき刺した.

あんまり痛くて、サオをおっ放し、
水の中でもだえ、苦しんで、そのまま
浅トロを20mも流された.

しこたま水を飲まされ、むせた.

京都・周山の水はおもいっきり 甘く、苦く、
そして切なかった.

その時の傷跡はいまだに右スネに残っている。

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その後、間もないうちに、吉川氏から電話連絡を受けた.

 「狩野川でのプロテストを受験したら自動的に
  『プロ』にしてあげる」

というようなことだった.

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でも行かなかった.

ガキに負けてなにがプロだ、、、屈辱だった・・・


たしかに屈辱ではあったが、

美山での優勝者らの絶対的な力量を目の当たりに
したせいか、不思議と心残りはなかった.

 「これでもう大会やトーナメントに出かけなくて済む」

と安堵感すら去来した.

だが、しかし、、、それから以降、、、

あの極端にやさしい抑揚の、京オトコ達のしゃべる

京都弁(あるいは周山弁なのか?)を耳にすると、

ズキリ、と右のスネが痛むようになった.


上桂川、、もう二度と一生、絶対に行かない、と誓った憂うつの川だ.


 (この項、了)
























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